足湯がぽかぽかと気持ちがいい。
ずっとこの土地のことを田舎だとか思っていたけれど、ぐるっと一周見渡すだけの心の余裕ができれば、悪くないと思えるようになった。

夕暮れもとっくに過ぎた時間帯。観光の一番の売りである足湯も、もはや誰一人使う者もなく貸し切り状態。そこに二人並んで、温まる。


「……いてー」
「軟弱ー」


足に大量の擦り傷を作って、ひいひい言っている不動に一言。ついでに傷の部分をわざと踏んでやる。といっても、座った状態なので力も対しては言っていないのだけれど。


「なにすんだよ、小鳥遊!」
「邪魔」


少しキツめに言えば、ものすごく抗議がありそうな顔をする不動。例えばこれが、知らない人間ならば、新帝国のメンバーならば、彼女以外ならば、不動全力で嫌がらせをしてくるところだろう。が、相手が小鳥遊だからこそ、ただ黙って不服そうに横目で見てくる。文句の一つも言いたげに。


「俺、怪我人なんだぜ?」
「知らない。勝手に怪我したのアンタでしょ。バーカ」


どれほど言ってもフォームを直さない奴が悪い。
不動の、特攻してくるような動きを思い出す。無駄が多いし、何より怪我が絶えない。雑魚ならともかくも、普通にプレイするにはいい加減やめないといけない方法だろう。
彼のサッカーは、反則ギリギリの線を行く。実際それはかなり強いのだが、しかし自分より強い相手には悲惨な思いをするだけ。雷門イレブンと戦った時に、一線引いた形で見ていた小鳥遊は思った。

今は、あの頃とは違うのだ。


「不動」
「んだよ話しかけんなよ」
「傷に染みるなら入んなきゃいいじゃん」
「寒いだろ」


互い乱暴に言葉を使いながらも、話す会話は幼子と変わらないレベル。状況が変わっても、人間ってそんなに簡単には変われないのだ。
八割くらいさっきの会話で機嫌を悪くした不動の肩を、小鳥遊はぐい、と押す。


「アイツら、ニュースになってた」
「……雷門の奴らか」
「どーせさ、あたしらなんて影山と佐久間たちのオマケで、アイツらは覚えてないだろうけどさ」


悔しい。今でも。
ずっと、自分たちは強いと思っていた。実際、愛媛では他に類を見ない強さだった。
それでも、影山が来て、変な石でパワーアップして、強豪・帝国から二人も選手を連れてきて……それでも、雷門イレブンには勝てなかった。
井の中の蛙、とはよく言ったものだった。小鳥遊は今まで、敗北を味わったことはなかった。もちろん不動も。

あの敗北は、二人にとって今でも大きな傷だ。


「キャプテン、あたしは強くなりたい」


呟く。
所詮エイリア石なんてその場しのぎのものだったならば、今度は本気で練習をしたい。二流と言い捨てた男を見返すくらいに、強くなりたい。


「……当たり前だろ。俺らは最強なんだよ」


相変わらず調子のいい言葉。いつだって、不動は軽口ばかりだった。
負けたくせに。二流って宣言されたくせに。
それでも、絶対に後ろだけは振り向かない、多少頼りない背中を頼ってずっとここまで来たのだ。
毒喰らわば皿まで。もう少し、不動の軽口に小鳥遊は夢を託す。
そうして彼を眺めていると、ふと、思いついたように不動は目を輝かせた。


「小鳥遊、みかん食いたいな」
「……持ってる訳ないでしょ、バーカ」




傷口を、できる限り力強く踏んでやった。













どうやったら読みやすくなるか実験中。
2009/11/20