新帝国に入った理由は、決して影山の甘言に酔わされたからではない。むしろ勘のいい小鳥遊は最初から、自分たちが使い勝手のいい駒であることなど気付いていた。小鳥遊はこれでも、四国の女子チームでは並ぶことない天才といわれたものだし、新帝国内でも唯一の女子でありながら、レギュラーであったことからも伺えるように、評価してくれた人間は五万と居た。
それでもここに在るのは、どうしようもないキャプテンのせいに他ならない。
不動は、一言で言えばバカであると小鳥遊は思う。
まず、影山の言葉を疑いもしなかったこと。サッカーを囓っていた人間で、影山の悪名を知らぬ者は居ないくらいの有名人だ。そんな人間が、逃走して一番にやることに信用ができるだろうか?
答えは勿論ノーで、新帝国学園という企み自体が今流行のエイリア事件の一端で、所詮は咬ませ犬としての意味しかないものだと理解できる。
しかし、不動は甘言に簡単に乗せられてしまった。
不動のプレイは、今まで誰からも評価されることはなかった。運動神経やセンスも良く、育てればいいプレイヤーになることは理解できても、不動の攻撃的な性格や、乱暴なプレイは教育者たちを敬遠させた。だからこそ、「君が必要だ」などという、影山の胡散臭い発言さえも彼にとっては真摯に聞こえたのかもしれない。いとも簡単に、影山の手足となった。
あっさりと操り人形になった不動を、小鳥遊はバカだと思う。しかしバカは一度痛い目をみなければ、目を覚まさない生き物である。だから、放置しておく。苛つきを覚えながらも、不動に従った。
そうしてあっさりと、彼の世界は崩れた。
結局の所、影山という男は自分の最高傑作である鬼道しか眼中になく、不動は結局代用品にすらなれなかった。新帝国という場所すら、使い捨てのチームでしかなく、船が沈むのと一緒に、脆弱な基盤も消えて無くなった。小鳥遊にとっては全てが予想の範囲内であったのに、理解できなかった不動に笑いすらこみ上げる。
そうして残ったのは、プライドをずたずたにされて、抜け殻になった不動。
「ホント、あんたバカでしょ」
挑発に不動は乗ってこずに、ただ放心して、力ない薄ら笑いを浮かべている。バカだ、救いようがない。
しかし、お灸は熱い方がいい。バカはどんな薬をつけても治らないが、学習能力くらいはあるはずだろう。
膝を折って立ち上がれない不動を、小鳥遊はスパイクのまま蹴る。痛いかもしれない。しかし、これくらいで心折れてしまっては意味がないのだ。
一流だろうと二流だろうと、端から眼中になかろうとどうだっていい。
ただ、自分たちはこれからも足掻かなければいけないし、こんなところで立ち止まる余裕もない。さっさと不動を立ち上がらせて、進んでいくだけだ。
「さっさと立ち上がりなさいよ、キャプテン」
不動の尻を蹴っ飛ばしてでも、小鳥遊は歩んでいくことを決めていた。
バカバカ言いながら、絶対離れないツンデレ。小鳥遊は9:1でツンとデレが来ると思う。ツン度が非常に高いといい。
2009/11/29