「……苦ぇ」

 それが、出したコーヒーに対する綱海の感想だった。塔子も一口飲んでみるが、別段悪くないように思える。首をかしげて、カップを皿に戻した。

「そうか?」
「苦くねーか?」
「ミルクと砂糖、あるよ」
「助かるぜ」

 ドボドボと際限なく加えられる砂糖とミルクを見ながら、ここまで入れたらコーヒー牛乳であってコーヒーではないな、と横目に思った。きっと彼は、ローストの具合だとか豆の種類とか全く考えていないに違いない。
 最初からもっと他の飲み物を出せば良かっただろうか。かき混ぜられる、コーヒーだったものを眺めながら考える。

「綱海はコーヒー嫌いなのか?」
「いや、ブラックじゃ飲めねーだけで、嫌いってほどじゃねーな」
「普段は何飲んでるんだ?」
「コーラとか……麦茶だな。塔子こそ、コーヒーなんか普段から飲んでるのかよ」
「うん。仕事もあるしね」

 彼女はSPという仕事上、大人と関わることが多い。そして、夜間の仕事等も含めれば、飲み物はほぼコーヒーといったところだろうか。さすがにサッカーの時はスポーツドリンクを補給するが。

「よく飲めるよな、そのまんまで」
「慣れたらブラックが一番美味いよ。甘くするより」
「絶っっ対に飲めねーよ。こっち一口飲んでみろって」

 にやりと笑って、綱海は白いカップをこちらに渡す。受け取ってみれば、混ぜものをしたせいか、温度がかなり下がっていた。縁に口を付けて、軽く啜る。

「……甘い」

 びっくりするほど甘い。コンデンスミルクたっぷりのベトナムコーヒーに匹敵するほど甘い。どれほど砂糖を入れたらこんなに甘くなるのだろうか、絶対に底に溶け残っている。
 だが、綱海は自信ありげに笑っていた。

「どーだよ、こっちの方が美味いだろ?」
「……溶けきるくらいにしといた方がいいんじゃないのか?」
「ん?」

 全く気になっていないのか。小さく溜息を吐いて、自分のカップに口を付けた。
 そこで、小さなことに気がついた。彼のカップ。利き手は同じ。カップを持つ手もまた同じであれば……
 顔に熱が灯る。かぁぁぁっと、耳まで真っ赤になった顔をカップで隠しながら、コーヒーを喉に流し込む。先ほどの甘さにくらべ、あまりに強い苦みに顔をしかめる。さっきまでは全く平気だったはずなのに。
 甘ったるいまでの自分の変化に、心臓が跳ねるように反応した。
 砂糖壺に手をかける。

「あ、塔子も入れるのかよ」
「少し、ね」

 あんなにいっぱいはいらない。ほんの少しでいいのだ。小さな銀の茶匙を見つめた。

「……結構美味しかった」
「だろ!」




海の星と蒼い月様提出作品です。ありがとうございました!!